今回の記事「凍りのくじら」辻村深月
辻村深月さんは、私の大好きな作家です。「かがみの孤城」が本屋大賞をとったり、映画化されたりと知名度は高いですが、他にも多くの素敵な作品があるので、ぜひ手にとっていただければと思います。
その中で、今回は「凍りのくじら」をご紹介します。主人公は少し冷めている、周りとの差を感じている高校生で、最初は少し共感できない人もいるかもしれません。
しかし、物語が進むにつれて人との繋がりに気付き、最後には光の意味がわかる、そんなお話です。
こんな方におすすめ
- 高校生・大学生で読書が好きな方
- どこか他人と距離感を感じている方
概要
『凍りのくじら』は、プロローグとエピローグを除くと、
第1章 どこでもドア~第10章 4次元ポケットの全10章となっており、
文庫版でも500頁を超える長編です。
ここでもうあれっと思った方もいらっしゃるでしょうが、そう、各章のタイトルは『ドラえもん』の秘密道具になっています。辻村深月さんは『ドラえもん』の大ファンで、映画『のび太の月面探査記』の脚本を担当、ノベライズもされていますね。
私も幼い頃、ドラえもんは本当によく読んでいたので、そういった意味でも思うところがありました。
また『ドラえもん』の著者である藤子・F・不二雄先生は「SF」のことを、「少し不思議な物語」であるとの言葉を残しているそうです。本書もその言葉と同じで、「少し不思議な物語」です。
辻村深月さんの作品は、各作品で繋がりがあり、おすすめされている順番もあるので、それについてはまた別の記事で書きますね。
あらすじ
まず、こちらが講談社文庫のあらすじです。
藤子・F・不二雄を「先生」と呼び、その作品を愛する父が失踪して5年。高校生の理帆子は、夏の図書館で「写真を撮らせてほしい」と言う1人の青年に出会う。戸惑いつつも、他とは違う内面を見せていく理帆子。そして同じ頃に始まった不思議な警告。皆が愛する素敵な“道具”が私たちを照らすとき――
講談社文庫
理帆子について
主人公は進学校に通い、読書が好きな女子高校生の理帆子。
理帆子はどこのグループの輪にも溶け込んでいくことができますが、周りを少しばかにしているような、どこか達観したような性格をしています。
そして尊敬する藤子・F・不二雄先生のSF(Sukoshi Fushigi)を真似るように、周りの人の個性を「スコシ・ナントカ」と形で整理しています。
理帆子自身の個性は「Sukoshi Fuzai(少し不在)」。どこでもなじめるけど、どこも自分の居場所と思えない、息苦しさ、孤独をそう表現しています。
場の当事者になることが絶対になく、どこにいてもそこを自分の居場所だと思えない。それは、とても苦しい私の性質。
「凍りのくじら」 p51(文庫版)
別所との出会い
7月の放課後、学校の図書室で、本を読んでいた理帆子に別所あきらと名乗る男子生徒が声をかけます。別所は理帆子の母が入院している病院で彼女を見かけたと言い、夏に撮りたい写真があるのでそのモデルをしてくれないかと頼みます。
これを私よりいい子がいます、と理帆子は断りますが、別所はまた口説きにくると言い残して帰っていきます。このとき理帆子は別所に対して、今までの同年代の男性とは違う、まるで大人のような雰囲気を感じます。
別所については、本書の良心というか、不思議な爽やかを感じさせる存在でしたが、物語が進んでいく中で、衝撃の展開が待ち受けています。
元彼の若尾
理帆子は、元彼である若尾大紀と別れて以来初めて会うことになります。若尾は、非常に美しい容貌をしていますが、精神的に幼く、神経質で危うさをもった男性です。
その日も純粋な好意で、プレゼントとして使い古された紙袋から、大量のお菓子を机にばらまきます。しかも司法浪人生という立場でありながら、スロットで貰ったのだと嬉しそうに話します。怒り、恥ずかしさを感じるもの、理帆子は本音を言うことができません。
また、理帆子の友達のちょっとしたふざけた言動にも激高し、声を荒げます。理帆子はそんな若尾の個性は「少し・不自由」だと思っていましたが、今は「少し・腐敗」だと考えます。
今の彼の個性は、Sukoshi Fuhai(少し・腐敗)だ。どうしようもなく。
「凍りのくじら」p103(文庫版)
最初から腐っていたのか、今初めて腐り出しているのか。それはわからないし、知りたくもない。
若尾について、読んでいて、どうしてそうなってしまったのか、感情を逆なでられます。しかしこれが魅力的なキャラクターともいえるのかもしれません。
その後、それぞれの個性を持つ若尾や別所が理帆子の物語を大きく動かしていくことになります。
感想
「凍りのくじら」は、最後には光や希望、優しさを伝えてくれます。
一方で、光と対比するように、人の危うさや暗い部分もしっかり表現されています。
人によっては、暗いの部分の描写が苦手だったり、不快だったりするかもしれません。
しかし、人は誰でも多かれ少なかれ、暗い闇の部分も持っていると思います。
この明るいところと暗いところ、両方の感情に触れるのが本作品の特徴かもしれません。
しかし最後には、「そうだ、それでいいんだ」、「人はそうやって色んな人と関わっていけるんだ」
と感動し、理帆子に感情移入している自分がいました。良かったね。。
私も学生の頃は、今に比べると不安なことも多かったことを思い出し、
でも、それもあって今の自分になっているので、大人になれて良かったなと感じました。
なんだか他人と距離を感じたり、真っ直ぐに人と向き合うことが苦手な方はすごく響くのかなと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました!
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